たかのぶろぐ

独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である。

書評・共喰い・田中慎弥

 

f:id:kazin:20190219005949j:image

 

最初で最後の書評を行いたい。

今回は田中慎弥の「共喰い」。

芥川賞受賞作を中心に読み進めている近頃だが書評というものに挑戦してみたい。

 

まず文体が独特。

一文がとても長いのが特徴で忘れた頃に定期的に出てくる。

車庫に停めてある、誰の持ち物かはっきりしない小さなトラックの荷台に積まれているのは、何かの機械に部品として使われてるらしい金属の塊のことも、今にも崩れそうなサビだらけの一斗缶のこともあり、山から切り出してきたばかりという感じのという感じの埃っぽい石だったり、二度と使えそうにないテレビやミシン、ガス湯沸かし器だったり、段ボール箱に入った新品の文学全集だったりもした。

 

このような文章が何回か登場する。

普段あまり小説を読まないからわからないが、田中先生のような長い一文を書く人はいるのか。

一文が長いのにも関わらず読みにくさがほとんどないのが立派。

選考委員も歴代受賞作の中でも高い位置にあると絶賛していただけある。

 

情景描写が具体的で的確過ぎる。

風景や登場人物の性格、ストーリーの中の雰囲気。

その場面が実に的確に容易に浮かんでくる。

特に戦後の田舎が舞台であるため、言葉や当時の風景を描くことはとても難しいことだと思う。

もちろん作者その時代に生きていたわけではない。

今年芥川賞を受賞した高橋弘希も戦争中の作品を書いたことで話題になっていた。

経験してないことを書くのは私小説やノンフィクションでない限り普通のことだが、時代や国が違う中で、そこを舞台にして書くのはやはり難しい。

架空の世界の話ではなく、実際に存在していた過去の描写をするため当然リアリティーが必要になる。

 

性描写もリアルで素晴らしい。

以前田中氏がインタビューで「性描写や暴力描写が全くない状態で、ドラマチックな小説を完成させるのが技術的にも一番」と語っていた。

自分は技術がないから性や暴力を入れる必要があると。

共喰いは性行為中に暴力を振ってしまう主人公を描くいている。

今回の作品で田中は性と暴力の2つを取り入れたのだ。

性と暴力に関しての発言は自分にはよくわからないが、芥川賞の作品には必ずと言っていいほど性描写が描かれている。

もしかしたら純文学作品はほとんどそうなのか。

 

共喰いは初心者向けではないかもしれない。

時代も古く独特の方言も難しい上にあまり面白くない。

ただし文字数が比較的少ないから読みやすい。